教師のススメ
出席番号0番 〜始まった未来〜
1
小さいころ、一度はあこがれる職業の中に、“教師”という職業がある。 どんな人間でも、必ずその職業の人と、長い時間を過ごす。
時に人は、その職業の人と過ごす中で、“この人のようになりたい”や“大好き”等、その職業や人に“憧れ”というものを抱くことがある。
しかし、時には“こうはなりたくない”と思う事も・・・。
その小さいときに抱いた、“夢”をあきらめず、現実にする人たちがいる。 そして、現実にした人たちは、昔自分が夢を与えてもらったときと同じように、その小さき“夢追人”に色々な夢を与えていく・・・
この物語は、そんな夢を現実にした者達が、与えてもらったときのように、夢を与えながら、学校生活を熱く駆け抜けていく物語であーる・・・。
2
教師の一年は、3/31で終わり、4/1より始まる。 転勤になるものもいれば、そのまま順番通りに学年があがるもの・・・。 担任団から、外されてしまうものと様々である。
「今日から、この高校なんやぁ・・・。」
とある高校の正門の前で、一人の男が呟いていた・・・。 創立年数の割には、近代的な造りで、たくさんの設備があることが、見るからにわかる。
「・・・何か、気が重いわ。」
「すいません、こちらの高校の方でございますかぁ?」
「いっ、ちゃっちゃいます!」
深いため息をしていると、不意に声をかけられる。 思わず出た言葉とともに、大きく首を横に振る。
「・・・。 っつーか、今日からここの教師になるんですわ・・・。」
しかし、すぐに我に返り、照れ笑いを浮かべながら、言葉を続ける。 そんな彼を見て、相手も思わず笑みがもれる。
「そうでしたか! 私は、今日が教師初出勤なんですよ!」
「そうなんですか? 今まで臨時講師かなんか・・・? もしかして、新任さんですか?」
「はい! 免許取立てですっ!」
よほどうれしいのか、満面の笑みではしゃいでいる。 その姿を見ていると、思わずこちらもうれしくなり、笑みが浮かぶ。
「ウチは今日からこの高校に赴任してきた、“吉崎 和生”って言うねん。 お嬢さんは?」
「私は新任の、“東 美奈代”っていいます! すいません、一人ではしゃいじゃって・・・。」
「あはは、そーとー嬉かったんやねぇ。 わかるわ、ウチもそやったし。」
申し訳なさそうに照れ笑いを浮かべる、東と名乗った女性に、吉崎は笑顔で答える。 東の姿を見ていると、思わず数年前の新任時代を思い出してしまう・・・。 思わず、“俺もこんなんやったんか・・・”と。
しかし、そんな微笑ましいひと時は長くは続かない。 何かを思い出したかのように、東は慌てて自分の腕時計に目をやった。
「・・・いっけなーい! もうこんな時間!! 早く行かないと、いきなり遅刻になりますわ!」
思わず大きな声を上げてしまう。 吉崎も我に返り、胸ポケットにしまっていた携帯電話の時計表示に目をやった。 集合時間5分前・・・。
「げっ! こりゃ、走らなやばいで! 初日そうそう、いきなりは・・・。」
もちろん、二人の血相は、ほんの30秒前とは雲泥の差。
「急ぎましょ!」
慌てて走り出す東。 なぜかその顔は、すでに反泣き状態である。 もちろん、吉崎も後に続く。
「・・・いきなり遅刻も、伝説みたいでおもろいかも。」
「でしたら、吉崎さん一人でどうぞ!」
「えぇっ! それは堪忍して・・・。」
いい大人となっても、学校というものは、時間というものに容赦はなかったのでした・・・。
3
校舎が大きいというのは概観からもわかっていたが、予想以上に広い校舎内だった。 通常の学校より、少し広めの廊下に、たくさんの教室がある。 その教室も一つ一つが広く、ゆったりとした空間となっていた。
バッタバタバタッバタ・・・
静かな校舎内に、すさまじいまでの足音がこだまする。 もちろん、主はいわずと知れた吉崎・東の二人である。 時間との戦いに、廊下を全力疾走・・・。 とても“先生”とは思えない姿である。
「・・・あっ! ありましたぁ! あの教室ですわぁ!」
「あと少しっ! よかった、セーフちゃう?」
全力疾走の中、息を弾ませながら東が目の前に見えてきた教室を指差す。 二人の表情に笑みがもれる。
全力疾走の勢いそのまま、目指す教室の前まで来ると、吉崎は何のためらいもなく、教室の扉を勢いよく開け放った。
ガラガラ・・・・・ ガチャーンっ!
「セーフっ!」
すさまじいまでの扉のスライド音とともに、満面の笑みでそう同時に叫ぶ二人。 もちろん、準備運動無しの全力疾走だった為、二人ともかなり息は切れている。
「何が“セーフ”なんですかっ! とっくにアウトですよ! ア・ウ・トっ!」
安堵の表情を浮かべている二人に、どこからともなく怒鳴りつける声。 その声に驚き、二人は目を丸くしながら慌ててその声のほうを見。
見れば、声の主らしい中年を越えたばかりの男性が、あきれた表情でこちらを見ている。 この教室は小会議室らしく、黒板の前にその男性が立ていて、三人がけの長机で長方形の形になるように配置されている。 すでに、各場所には吉崎たちと同じように、新任や赴任してきたのであろう先生たちが、思い思いの場所に座っている。 もちろん、全員が吉崎たちを注目しているのは、言うまでも無い。
「・・・あっ、あれぇ?」
「まったく、廊下をうるさく走るわ、遅刻するわ・・・。 挙句には教室の入り方すらしらないとは・・・。 だから、最近の先生は・・・」
苦笑いしか出ない二人に対して、歳が近づくと次第に多くなる小言攻撃・・・。 人間、歳をとってもこうはなりたくないものである。
「・・・もういいです。 今後は気をつけてください!」
「はぁ〜い・・・。 すいませんでしたぁ・・・。」
上司に当たるのであろう先生に、いとも簡単に切り捨てられる・・・。 二人とも、さっきまでとは想像つかないほど、暗い表情を浮かべながらうなだれ、呟く様に謝った。
「そしたら、あそこの空いてるとこに、さっさと座って。」
「はーい。」
二人とも軽い返事をしながら、指差された席へと向かう。 もちろん、周りの先生からが微笑しているのは、いうまでも無い。
「そしたら、全員そろったところで・・・」
何かの説明を始めていたらしく、その男性は話を始める。
「・・・ふえーん、最初が肝心なのにぃ・・・。」
「大丈夫やって、気にせんでも・・・。 これから、これからっ!」
東は今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。 そんな東に苦笑いを浮かべながら、吉崎が小声で呟く。 もちろん、吉崎も落ち込んでいるわけで、そうとう落ち込んでいるのは、表情を見ればすぐにわかる。
そんなへたれる二人を他所に、先生達への学校説明は続くのである。
4
ちょこちょこ休憩を挟みながら、学校説明がどんどん進んでいる。 配布された資料をもとに、校則や授業の仕組み、校歌にいたるまで・・・。
しかし、そんな中、吉崎はあることに気がついていた。
(なんやろぅ・・・。)
今は休憩中なのか、廊下に出て外を眺めていた。 昨日までドシャ降りの雨だったとは思えないほどの、青空が広がっている。 そんな青空を眺めながら、吉崎は難しい顔をしている。
「どうしたんですかぁ? 顔、怖くなってますよぉ。」
背後から、不意に声がかかる。 少し肩をビクッとさせ、驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔がもれる。
「なんや・・・。」
「『なんや』とは、ひどいですよ・・・。 さっきの説明のときからずっとそんな様子だから、心配してたのにぃ・・・。」
「い、いっや、ちゃうねん! そんな意味やないんやで。 考え事しとったからつい・・・。」
吉崎の言葉が頭に来たのか、笑顔だった東の表情は、一気にムスッとなる。 苦笑いを浮かべながら、吉崎が不機嫌な東をなだめにかかる。
「ごめんなぁ、心配してくれて。 ちょっと、気になることがあってな・・・。 たいした事やないんやけど、それを考えとったんや。」
言いながら、再び外の景色に向き直り、青空を眺め始める。 昔から、考え事をするときは、外の景色に目が行ってしまう癖が吉崎にはあるらしい。
「まさか、心配してくれてるとは思わんかったわぁ・・・。 ありがとぅ。」
「・・・で、ナニ考えてるんですか? 教えてくださいよぉ。」
照れ笑いを浮かべている吉崎の顔を覗き込むようにして、意地悪っぽい表情を浮かべた東が言葉を続ける。
「心配させたバツです。 教えてくれないと、ここから落ちますよ。」
「・・・先生、ここ一階やで。」
「・・・。」
無表情の二人が、凍りつく。
「なら、ここで頭うちつけます。 ガンガーンって・・・。」
窓枠をさすりながら、東が静につぶやく。 なぜかうつろな表情を浮かべながら・・・。
「・・・わかりました。 言います。」
しばらく、呆れ果てた表情でそんな東を見つめていたが、なんだか悲しくなって、思わず吉崎が呟いた。
(この人、言わんと絶ぇ対っ!五分後血まみれやで・・・)
吉崎は心の中で、そう思いながら・・・。
「わーいっ!」
「・・・。」
その瞬間、東は万歳で表情は満面の笑みに早変わり。 あーもぉ、どうしたらいいのやら・・・。 隣の吉崎の表情は、さっきよりも一段と複雑になる。 色んな人間いるもん・・・。 そう自分に
言い聞かせるしかせるしかなかった。
「でぇ? なに考えてたんですか? 見たい番組の予約忘れたとか・・・。」
そんな吉崎をよそに、マイペースでどんどん東は話を進めていく。
「・・・ちゃうちゃう。 ウチの向いに座っとる人、いやるやん?」
そっけなく答える吉崎の言葉に、東は一瞬考える。
「・・・。 男の人? ボーとしてる。」
あんたに言われちゃ世話ないが・・・。 思わず口に出そうになる吉崎。 ここはグっと我慢。
「せやせや。 何や知らんけど、さっきからちらちらこっちばっかみとんねんなぁ〜。 って、思ってたんや。」
「ふ〜ん、そうなんですかぁ・・・。 知り合いとか?」
「いや、記憶にないんよねぇ。」
東の言葉にそっけなく答え、窓の冊子を利用して頬杖を突く吉崎。
「・・・言われてみれば、みてますね。 吉崎さんを・・・。」
「う〜ん・・・。」
さっきの時間を思い出しながら、東が呟く。 吉崎はその言葉に、只うなずくだけで、初めの難しい表情を浮かべている。
「・・・吉崎さんに、一目ぼれとか!」
いきなりにこやかな表情になったと思いきや、東がそんなことを言い出す。 思わず吉崎も、一瞬かなり嫌そうな表情を浮かべ、すぐに苦笑い。
「あははっ! 冗談ですぅ、ジョ・ウ・ダ・ン!」
「・・・、だとええけど。」
一人楽しんでいる東を尻目に、吉崎は少し不機嫌な表情を浮かべる。
「吉崎さんたらっ、怒らないでくださいよぉ。」
「・・・。」
「ど、どうしたんですか・・・? 急に?」
何かを思いついたのか、吉崎は東を無言のまま見つめる。 少し顔を赤らめ、東が問う。
「・・・。 東先生って、ウチのこと“先生”って言わんなぁって。」
「えっ?」
「なんか、友達と話してるみたいで・・・。 ウチはそっちのほうがいいんやけど。」
不意に吉崎に言われた言葉に、東はうつむき考え込む。 責任を感じたのか、そんな東を少し心配そうな表情で吉崎が見つめる。
「・・・。 どないしたん?」
「・・・。 今日から先生なんですよねぇ。」
呟くうように言うと、吉崎のほうを見る。 しばらく、なにを思っているのか、無表情であったが、急に東の表情は明るくなった。
「私、全然学生気分が抜けてませんね。 ちょっと、大人にならないとダメですね!」
明るい声でそういうと、東は吉崎に笑って見せる。 照れ笑いのようにも思える表情で・・・。
「せや、お互いガンバロな! 東“センセっ”!」
吉崎も笑顔を返し、軽くガッツポーズを見せる。 東はそれに答えるように大きくうなずいて見せた。
「いっけない、そろそろ時間だぁ! 行きましょ、吉崎先生!」
笑顔でそういい、先に教室へと入っていく東を見つめながら、なぜかその後姿にさっきまでとは別人の“東先生”を見た気がした・・・。
5
「吉崎先生、吉崎先生・・・。 やっぱり見てますよ、あの人・・・。」
ほぼ“居眠りモード”に突入しかかっていた吉崎の脇腹を、東が肘でつつく。 不意につつかれ、ハっとした表情で思わず声が出そうになってしまう。
今は説明している先生のほうを向いているが、確かに一瞬目が合った。
「でも、さっき寝てたでしょ?」
再び脇をつつかれ、東に視線を向ける。 小声で言う東の表情は、なぜか楽しそう・・・。
「ね、寝てないでぇ。」
「うそだぁ。 今、私に声かけられたとき、すごい表情してたもん。 今にも・・・。」
「質問があるなら、遠慮なく聞いてくださいよ!」
見れば、説明役の先生が、少々荒々しい口調で東に言ってくる。 その表情には、少し怒りすら感じる・・・。
「・・・い、いやっ・・・。 なんでもないですぅ・・・。 すいません。」
「まったく、遅刻はするわ、説明中はしゃべるわ・・・。 “先生”なんですから、よろしくお願いしますよ!」
「はい・・・。」
その先生は東に注意をし、再び説明を始める。 もちろん、周りの先生方からは、微笑する声が漏れている。
「う〜・・・。」
まさに“踏んだり蹴ったりの新人デビュー”。 見れば東の表情は、今にも泣き出しそうである。 何か慰めの言葉をかけようと思ったとき、フっと何かの視線を吉崎は感じた。 見れば、例の“あの人”がこちらを見ている。 吉崎と視線がぶつかる前に、相手はすぐにそらしてしまうが・・・。
「なんで、私だけぇ〜・・・。」
隣は隣で大変なことになっている。 半ベソ状態でそう呟きながら、東は吉崎を何故か睨みつける。 そんな東に吉崎は、ただ苦笑いを返すのが精一杯。
「では、一通りの説明はこれで終わりにします。 わからないことがあれば、また聞いてください。」
その言葉を聞き、吉崎の表情が一気にパっと明るくなる。 しかし、そこはさすが“ベテラン”先生、見逃すはずがない。
「特に、“君”と“君”はしっかり復習しきなさい! 少なくとも、生徒に教えてもらったりしないようにしてくれ!」
イライラのボルテージがかなり上がっていたのか、かなりきつい口調で言い放つ。
「・・・え?」
思わず、吉崎は自分を指差す。 もちろん、先生は何度もうなずいた。
「先生の話は、ちゃんと聞かないとダメじゃないですか。」
「アンタに言われたかないなぁ!」
隣で東が意地悪そうな笑みを浮かべながら言った言葉に、思わず吉崎の声が大きくなる。
でも、もう一人は・・・?
「・・・あっ!」
自分を指差してる人物発見! 吉崎も思わず小声ではあるが、声が出てしまった。 もう一人は、例の“あの人”である。
「お前達は、居眠りしすぎだ! まったく・・・。」
先生の言葉に、周りの先生から笑い声が起こる。 思わず赤面してしまう“二人”。
「ダメですねぇ。 学生さんじゃないんで・・・」
「あー、そこの君も同じね。」
吉崎に追い討ちをかけようとする、東の言葉をさえぎるように、ベテラン先生が東を指差しながらあきれた表情で言う。 もちろん、周りの笑い声が再び起こると同時に、東に向ける吉崎の表情は、一瞬で意地悪な笑みへと変化する。 逆に、今度は東が赤面している。
「まぁ、そこの三人は後で居残りとして・・・。」
「えっ!?」
先生の言葉に、思わず三人が同時に同じ言葉で反応する。 もちろん、この三人は“東”・“吉崎”・“あの人”である。
「せっかくだから、自己紹介して終わってください。 終わったら、部屋を簡単でいいから片づけて、教室に鍵をかけたら、そこの三人は鍵を持って職員室に来てください。」
それだけを言い残し、先生は資料をまとめて、教室を出ていった。
「・・・。 では、はじめますか?」
ドコかしらか、そんな言葉が聞こえた。 硬直した三人の気持ちなど、誰も知るよしもなかった。
6
自己紹介といっても、非常に簡単に全員が済ましていく。 ほぼ全員が名前と教師暦・担当教科・・・。 今回の赴任組みは12、3人といったところで、次々と終わっていく。 残るは教師版“ボンクラーズ”のみ・・・。 吉崎が一番手らしい。 立ち上がる吉崎の表情は、なぜか疲れきっている。
「えっと、名前は“吉崎 和生”いいます。 教科は・・・。」
「やっぱりそうかぁっ!!」
やる気なく、吉崎が言葉を続けていると、遮るように誰かが大声を上げる。 見れば、目の前に座っていたはずの“あの人”が、驚きの表情を浮かべながらいきなり立ち上がる。 周りが静まり
返る中、“あの人”が言葉を続ける。
「お前、アレだろ?! 高校は“白鳥高校だろ”?」
「・・・せ、せや。 なんで知ってるん?」
“あの人”がすごい剣幕で聞いてくる。 その勢いに押されながら、驚いた表情で吉崎が答える。 その二人のやり取りをあたふたしながら見守る東。
「俺だよ、俺! 中田だよ、な・か・たっ! テメぇー忘れたかぁ!?」
「・・・。」
「・・・。」
二人の間に、無言のときが流れる・・・。
「・・・、昔さぁ、戦闘衛星ハッキングして、校舎破壊したっしょ?」
「・・・。」
「衛星ハッキングして、お前をムッコロス・・・。」
あの人の言っていることは、はたから聞いていたら、とても恥ずかしいことを言っているに違いない。 しかし、その言葉を聞き、吉崎の表情が徐々に変わっていく。 あの人は思う、
“あと一息!”。
「・・・オンドゥルルラギッタンディスカー!」
「し、ししょーっ!!」
「思い出したかっ!」
その場にいた全員が、すさまじく驚きの表情に変わる。 だが、見る目は寒い・・・。 しかし、今の二人には、周りなど関係ない。
「お前、六年も音信不通でなにしてたっ! ってか、なんでここにいるっ!」
「ってか、ししょーも場違いちゃうん!」
「・・・ねっ、ねぇ!?」
歓喜あふれる二人をよそに、吉崎の袖を東が引っ張る。
「ど、どないしたん?」
「あ、あの変な人、知り合い?」
あの人を指差しながら、東が問いかける。 しかし、困惑の表情を浮かべている。
「あっ、あの人? あの人、俺のししょー。 高校時代の同級生の“中田 一洋”って人やで。」
「あっ! だから、ずっと吉崎先生のほうを見てたんだぁ・・・。」
吉崎のその言葉に、納得の表情を浮かべる東。 しかし、すぐに何かを思い出したのか、はっとした表情を浮かべ、吉崎に言葉を続ける。
「いっ、いや、そうじゃなくて・・・。 あの人、今変な言葉を・・・。」
「・・・、あぁ、あれは“オンドゥル語”やで。 あの人、いろんな言葉を研究してるらしいから。」
笑顔で答える吉崎を、何か変なものを見る目で見つめる東。 いや、今ここにいる全員が同じ目をして二人を見ている。 しかし、二人はそんなことには、まったく気づくわけがない。
「テメーには、聞きたいことが山ほどあるっ!」
「そんなん、俺もそーやで!」
再会を喜ぶ二人の表情は異常に楽しそう。
「ねぇ、ねぇ・・・。」
東が吉崎を呼ぶが、すでに二人の世界。 周りがまったく見えないのか、楽しそうに話を続けている。
「・・・。 この人たちほっといて、私自己紹介しまーす・・・。」
あきらめたのか、疲れ果てた表情で東がおもむろに立ち上がる。 もちろん、その後、全員がこの二人をほったらかしで帰って行ったのは、言うまでもない・・・。
7
あれから二時間・・・。 教室が真っ暗にまるまで、二人の世界は崩れることはなかった。
そんな二人を尻目に、一人で片づけをしたあげく、二人が我に返るまで、東がずっと待っていたことは言うまでもない・・・。
しかも、その後はベテラン先生の“お説教タイム”! もちろん、こっぴどくいかれたに決まっている。
すっかり日が落ち、真っ暗になってしまった道を、ボンクラーズ・・・、いや三人の教師がおもむろに歩いている。
「・・・。 東先生、ごめんなぁ。 怒ってる?」
隣を歩く東に、吉崎が申し訳なさそうに声をかける。 しかし、東はそっけない表情でそっぽを向く。
「そりゃ、怒るに決まってるだろ? お前の“せい”なんだから。」
後ろから吉崎に、中田が声をかける。
「いやいや、ししょーも同罪やん。」
・・・たしかに。
「いいですっ! 今日は散々!」
「ええっ! ウチが全部悪い見たいやん・・・。」
「あったりまえです! 悪いんですっ!」
怒りの表情を浮かべ、吉崎をにらみつける。 そんな東に苦笑いを返すのが精一杯の吉崎。
「・・・、なー、和生よぉ。」
「? どないしたん?」
そんな二人のやり取りをずっと見ていた中田が、不意に吉崎に声をかけた。 不思議そうな顔をして振り返る吉崎に、中田は言葉を続ける。
「さっきから思ってたんやけど・・・。 付き合ってんの?」
何気ない中田のその言葉に、二人は思わず驚きの表情を浮かべ、中田を見る。
「そっ、そんなんじゃないですっ! 今日はじめて会っただけですっ!」
「そっ、そうなんやって、ししょー!」
なぜか赤面状態で力一杯否定しあう二人。 無表情だった中田の表情は、そんな二人を見て不適な笑顔へと変わっていく。
「へぇ―・・・。 そんなんには見えんけど。」
「なっ、何いってるんですかっ! どこかで頭ぶつけましたかっ!?」
東の必要以上の否定に、隣の吉崎の表情は、なぜか悲しそう・・・。 しかし、そんな吉崎を尻目に、中田と東のバトルは続く。
「だってさぁ、まずは“一緒に遅刻”でしょ?」
「あっ、あれは、たまたま校門前で出合って・・・。 話してたら遅くなって・・・。」
「休憩中もずっと一緒じゃなかった?」
「・・・、だって、話せる人いないし・・・。」
中田の言葉に、どんどんと泣きそうな表情になっていく東。 声もだんだん小さくなる。
「はたから見てたら、そうにしか見えないぜ?」
「まぁ、ええやん。 俺も、知らん人と話するん苦手やし、東先生のおかげで楽しかったし。」
二人の間に割り込むように、吉崎が笑顔で言う。 その言葉に、驚きの表情を東が見せる。
「まぁ、異常なまでに人見知りするお前が、あの中であそこまで話してる姿を見てな・・・。 今までだと、ありえん“奇跡”だからな。」
「・・・?」
「こいつ、人見知りすごっくってさぁ・・・。」
困惑の表情を浮かべる東に気づき、中田が声をかける。
「団体行動とかになったら、全体に孤立してまってたんだぜ。 高校時代、修学旅行とかも来なかったモンな。」
「えっ? ホントですか?」
中田の言葉を信じられないという表情を浮かべる東。 すぐに、隣を歩く吉崎に向ける。
「うん、サボった。」
笑顔の吉崎。
「・・・。 遠足とか、楽しいじゃないですか?」
「こいつ、変わりモンだから、感覚が人とちょっと違うみたいで・・・。」
「あんたには言われたないなぁ!」
明るく言い放つ中田に、吉崎が怒りのツッコミを行う。
「だが、昔に比べて、マシになったか?」
「・・・? かも。」
「まぁ、少しづつ人間に近づいてるんだな。」
「・・・。」
中田のその言葉に、苦笑いの吉崎。 その二人のやり取りを聞きながら、東の表情は引きつっている。
(・・・あの人に、人間扱いされてないって・・・。 吉崎先生って、どんな高校生だったんだろう?)
思わず、そう思ってしまう東がいた。
東がそんなことを思っているなんて事は、まったく気づいていない吉崎が、不意に声をかけてくる。
「東先生って、これから暇なん?」
「えっ?」
「いや、色んな意味の“お詫び”に、ご飯でもって思うて・・・。」
照れ笑いを浮かべながら、吉崎がいう。 東もその言葉をきき、なぜかうれしそうな表情を浮かべる。
「なにっ! おごってくれんのかっ?! すまねぇっ!」
「あんたのは知らんっ!」
吉崎の“おごり”という言葉に、すさまじいまでの反応速度を見せる中田。 力のこもった言葉を吉崎にかける。 しかし、そこは師弟関係なのか、負けないぐらいの反応速度で切り返す。
そんな二人のやり取りを見て、小声で笑っている東。
この二人を見ていると、なぜか楽しい気分になっている・・・。 一瞬、そんな気分になっている自分がいることに、疑問を感じた。 この人たちのせいで、教師初出勤はボロボロ・・・。 さっきまで、怒ってたのに何故・・・?
しかし、今の東にはそんなことはどうでもよかった。
「私・・・。」
「どないしたん? やっぱりあかんか?」
「ううん。 “外食”って、フランス料理とかのコースしか・・・。」
「なにっ!?」
東の言葉に、もちろん二人同時に異常なまでの反応をする。
「キサマはブルジョワかっ!?」
「えっ?えっ!?」
なぜか、怒り狂う中田。 その中田にどうしていいのかわからず、困惑の表情を浮かべ、あたふたしている東。
「そっ、そっか。 ほな、あかんね・・・。」
苦笑いを浮かべる吉崎。 その言葉を聞き、東は意味不明な身振り手振りを始め、言葉に
なっていない言葉を発している。
「・・・? どないしたん?」
「いっ、行きますっ! でも、わからないですっ!」
「?」
東の言葉を理解できない吉崎。 困惑の表情を浮かべている吉崎を見て、ますます慌てふためく東。
「なにをドコで食べるのか・・・。」
「よーしっ! 任せろーっ!!」
東の言葉を聞き、中田が急に大声をだした!
「ブルジョワのキサマにぃ、外食のなんたるかを叩き込んでくれるっ!」
「え゛っ!? そんなたいそうなん?」
必要以上の力説を行う中田に、思わず吉崎がツっこむ。
「はいっ! 勉強になりますっ!!」
「あ゛っ!?」
力一杯の東の発した言葉が、まったく理解できない吉崎。
「では行くぞっ! ついてこーい!」
「はいっ!」
「え゛っ! マジまんっ!?」
この後、三人がどこで何を食べたのかは、定かではない・・・。
出席番号 0番 〜始まった未来〜
今日の授業はここまでっ!
次回予告っ!
黒沢 ・・・ “春”といえば、“出会いと別れ”。 今年も、色んな出会いがありそうね。
谷崎 ・・・ 毎回新しいのがいると、顔と名前覚えなきゃいけないから、めんどくさぁー・・・。
黒沢 ・・・ そんな、人を物みたいに・・・。
谷崎 ・・・ 他人なんて関係ないわよ。 テキトーに、あだ名つけときゃいいのよぉ。
黒沢 ・・・ へぇー・・・。 あの先生の行動日誌、つけてたの誰かしらぁ?
谷崎 ・・・ なっ、なによぉ! あんたなんか、“しつこい”って、捨てられたくせにっ!
黒沢 ・・・ あっ、あれはっ! あんたがねぇ!
東 ・・・ ふっ、二人とも喧嘩はダメですぅ!
谷崎 ・・・ っさいわねっ! 引っ込んでなさいよっ!
東 ・・・ ふえーん・・・。
黒沢 ・・・ ゆかりが悪いんじゃないっ! いっつも・・・。
谷崎 ・・・ あんたがチンタラしてるからっ・・・!
中田 ・・・ 次回の教師のススメは、“女の戦い 地獄絵巻”!
谷崎&黒沢 ・・・ んなわけなーいっ!