風邪をひいた日〜ジークの場合〜
1
2
3
4
5
6
−6−
その夜、夢を見た。
師匠であるリュディアは、煌びやかな海賊の衣装を身にまとっていた。
その表情は凛々しく精悍で、思わず惚れ惚れしてしまうような様子だった。
操舵輪の前に立つリュディアを眺めながら、思った。
やはり、師匠はこの世界・・・海の上で暮らしたかったのだろう。
海について話す師匠の様子を見ていれば、それくらいはすぐに分かる。
しかし、何故師匠が海を捨て・・・こうして陸で暮らすようになったのか。
そのことについては、詳しいことはまだ何一つ聞かせてもらっていない。
(そうだ。いつか、海に連れて行ってもらおう)
いずれ、師匠の心の整理がついたら。
そして、何もかもを打ち明けてもらえるほどの“強さ”を、
自分が身に付けることができたなら。
(そうだな。風邪など引いているうちは、まだまだか)
生き生きとした様子で船を操るリュディア。
その後姿を見て、ジークリートは微笑み・・・
少しだけ、酔ったのだった。
*
翌朝。自室で目を覚ましたジークリートは、ベッドから出ると大きく伸びをした。
昨日の辛さが嘘のようだ。あの高熱や頭痛、そして喉や鼻の不調も跡形もない。
(流石はエディスさんの作った薬だ。一日で綺麗に治ったみたいだ・・・)
とにもかくにも、これでまた平穏な毎日が戻ってくるのだ。今日からはまた、学校にも復帰できるだろう。
・・・台所に立って朝食の準備をしながらも、ジークリートは自らの顔に浮かぶ笑みを抑えられないで
いた。
(健康って、素晴らしい・・・)
時計を眺め、針が八時を指したことを確認すると二階へ上がる。リュディアの部屋の扉を開け放ち
ながら、ジークリートはいつになく爽やかな調子で言った。
「師匠、おはようございます。」
「・・・・・・。」
「昨日は、色々とご迷惑をおかけしました。ほら、この通りすっかり元気になりましたよ。・・・これも、
師匠のお蔭です。」
いつものように、頭から布団を被ったリュディアからは何の反応もない。微かに苦笑いを浮かべた
ジークリートは、ベッドへと歩み寄ると静かにその布団を捲り上げた。
「さあ、師匠・・・起きてください。」
布団の下から現れたリュディアは、自らの両肩を抱くようにしてがたがたと震えていた。とある可能性に
思い当たったジークリートは、その赤く染まった頬に触れるや否や眉を顰めた。
熱い。これは、あれだ。・・・いわゆる風邪というやつか。
立ち尽くしているジークリートに向かって、小さく咳き込んだリュディアがか細い声で言った。
「ちくしょう・・・。昨日、お前にうつされたみてえだ・・・」
「・・・・・・。」
「うぐぐ・・・。頭はガンガンするし、喉は痛えしで・・・ジーク、早く・・・何とかしてくれ。」
「・・・分かりました。まずは、エディスさんのところへ行ってきます。」
小さく溜息をついたジークリートは、元通りリュディアに布団をかけると部屋を出ていった。玄関へ回り、
外套を羽織る。
どうやら、今日も学校には行けそうもない。

おしまい